







tNtは過去にYukon Questの大会を何度か追ってみましたが、観客として見ていてもそのドラマが伝わってきます。コースには10箇所ほどのチェックポイントがあり、小さな集落に行くと犬ぞりチームの姿を見ることができます。スタート時は14頭で走っていきますが、途中で犬の調子などがよくないと判断すると無理をせずにチェックポイントで置いて行きます。ハンドラーと言われるお手伝いさんたちがレースを追って行きますので、置いて行かれる犬たちは彼らのもとに預けられます。獣医さんやボランティアさんもチャックポイントで待機しており、犬の調子を見たり大会の運営を手伝ったりしたりしていますので、その様子を見るだけでもレースの雰囲気が味わえるでしょう。
チェックポイントに着いてもマッシャーたちは十分に休むことはありません。犬の餌やりや藁を敷いての寝床作り、自分のご飯を食べたりしているうちに時間はあっという間に過ぎていってしまいます。最後にマッシャーが睡眠をとりますが、短時間の仮眠をする場合がほとんどですので、レース中は常に睡魔と戦っている状態です。ユーコンクエストほどの長距離レースに出るには200万円から300万円ほどの資金がかかると言われており、秋から冬にかけての毎日のトレーニングに時間もかなりとられます。毎日40、50キロは走るチームもいますので、相当な量のトレーニングを積んでいることがわかります。おまけにトレーニング中は訓練が優先されますのでまともな仕事ができません。大抵のマッシャーたちは夏に稼ぎ、残りの季節はトレーニングやレースをしながら細々と暮らしている人がほとんどでしょう。もちろん稼いだお金のほとんどは犬の世話やレース資金へと消えて行きます。ユーコンクエストや優勝しても賞金と必要経費が同じぐらいですので、お金目当てで行なっているものではないことは明らかです。ではなぜこんなに大変なトレーニングをして、お金をたくさん使って寒い中を頑張って走って行くのでしょう?








犬ぞりレースには極北の伝統とドラマがあるからではないのか。レースを何度か追っていてそう思いました。極北が外部の世界に大きく開かれたのは1898年のゴールドラッシュ以降で、それ以前は先住民や一部の白人しか住んでいないまさに秘境と言える大地でした。ゴールドラッシュが始まってからも、金があまり採取できなくなると人はいなくなり、本格的な近代化が始まったのは第2次世界対戦の時期です。アラスカハイウェイが戦時中に建設され、そこから車社会へと徐々に変わって行きましたが、それ以前は冬は犬ぞり、夏は蒸気船やカヌーや筏で川を下るのが主な移動手段でした。車がない時代は犬ぞりがないと物資を運ぶこともできませんでした。ノームというアラスカの集落で疫病が蔓延した際に、犬ぞりで血清を運んだのは極北では有名なお話です。犬ぞりは近代化と共にスノーモービルに変わっていき、伝統的な犬ぞり自体は生活の移動手段としての役割を終え、徐々にスポーツ化して行きました。今ではスポーツや趣味として犬ぞりを行なっている人がほとんどです。








ただ今でも極北の人々の中には、犬ぞりが極北の生活に果たしてきた役割の認識、そして厳しくも美しい原野を動物たちと走るロマンが残っているのだと思います。今でも極北には人の力が及ばない大自然が残っています。厳しい冬の原野に犬と共に挑みながら進んでいくという姿が、人々の感動を誘うのではないでしょうか。今年のレースはアラスカのフェアバンクスから出発し、ユーコンのホワイトホースでゴールします。今トップのマッシャーたちは、半分地点のドーソンへ向けて走っているところです。ユーコンクエストの大会のHPでも彼らの現在地や順位が分かったりしますので、興味のある方は覗いてみて下さい。
今年はtNtツアーとしてはレースを追いませんが、ゴールのホワイトホースでマッシャー達が入ってくる姿を別のツアーの参加者たちと観戦しに行く予定です。今年はtNtとしては初めて大会に合わせてセスナも飛ばす予定ですので、空の上から原野を走るマッシャー達も見ることができるでしょう。優勝者のホワイトホースでのゴールは2月12日の予定です。誰が優勝するのかは気になりますが、それ以上にマッシャーと犬達がベストを尽くした結果、無事にゴールする姿をみたいと思っています。(2019年のtNtユーコンクエストツアーはこちら)





